深層筋と体幹を鍛える ー能の「すり足」ー

「すり足」の動き

日本の踊りの伝統芸能である「能」。その基本的な動きは「すり足」です。すり足では、足を上げずに足全体で地面をするようにして移動します。このすり足が健康にとても良い動きなのです。じつはこのすり足は、和服に下駄や草履を履いていたころは日常的だった「和」の歩き方なのです。

大腰筋を使う動き

すり足の動きは、「股関節から足を出す」、「つま先が自然に上がる」、「つま先を下げる」、「床をつかむ」という4つの部分に分けられます。特に重要なのが、「股関節から足を出す」動きです。ひざを軽く曲げた姿勢から大腰筋をわずかに動かすことで足を前に出すのですが、このわずかな動きが深層筋の鍛錬につながります。これによって背骨と脚を結ぶ大腰筋が鍛えられます。大腰筋は立ったり歩いたりする動作を支えるので歩行などで鍛えることができますが、歳を取るとともに衰えがちです。能の動作をすることで、体の深層筋や大腰筋を目覚めさせる効果があり、体軸を安定させ体をよりしなやかな状態に導きます。

謡の発声にも健康効果

また、能の「謡」の発声法は七五調の響きの美しさを表現しながら、腹式呼吸による長い息を繰り返します。こうした息を長く吐くということや、すり足でゆっくり動くことによって副交感神経が刺激されます。それによってストレスの解消にも役立ち、免疫力も高くなることにもつながります。

日本舞踊にも

能より少し身近にある伝統的な踊りといえば、日本舞踊です。じつは日本舞踊でもすり足を使います。日本舞踊では丹田(下腹部)に力を入れるのが基本です。そして、一本の足の上に体重をかけてゆっくり体を動かすのです。これによって、腹筋や背筋が鍛えられて体幹を鍛えることができます。すり足はすぐにマスターできるものではありませんが、日常生活でもできることですのでぜひ試してみましょう。

   

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